野狐の世間話その2

野狐の世間話その2

■所在地佐賀市西与賀町
■登録ID213

谷口鉄工所が本当に盛んな時、私がまだ若い頃、あの、私の所は建築資材のごたっとを売いよったたんたぁ。そいぎ、あつこがレンガのいっけんちて、レンガの注文があったわけたんたぁ。
そいぎ、なんの電話はそん頃なかもんじゃい、そいぎあの、急ぐちゅうもんじゃい、そいぎ、「今のから行たて来っか」ちゅうて、私が行こうでしたぎ、そいぎ、父が、「今からもう、暗うなっけん行くな」ち。そいばってんが、気になんもんじゃい、「俺が行たて来っ」ちゅうて、そのまま、ところが、えぇ、城島ちゅうて、大川の筑後川の所に工場があっわけですたいなぁ。そいぎ、そこさい、もう、午後から行たわけ、自転車で。
そして、ずうっと行きよったところが、もう、大抵、日暮れ頃になって、ちょうどそんときゃあ、あの、なたねの咲しとっ頃でござんした。そして、ずうっと行たて、もう、だいぶん行たて、そしてあの、煙突が、工場あるからなたぁ、煙突がずうっと先の方まで見えよっ。とにかく、ずうっと行きよったところが、あの、その、なの花の畑ん所を、何か、ぷすっと、あの、道ば行ったわけ。そいから、少し行きよったところが、ずうっと行きよったところが、道がだんだん狭もうなってくっ。そして、ずうっと行きよったところが、先ゃあもう、道が狭もうなって、もう、あぜ道のごとなって自転車行かれんごとなってしもうた。ありゃ道ばまちごうとっばいと思うて、そしてちょっと立ち止って、こう、あたりを見回したら、そうすっと、少し離れたところは、うぅん、人のまだ通いよっし、あの、車も通いよった。そいぎ、あぁ、そんときゃ道ば自分がまちごうとったと思うて、こう行きよるばってん、先ゃあ田ん中ゃ行かんばらんていうて、そうして、また戻って、戻ったところが、あがんと太か道に出たわけ。そして、ずうっとまた、その工場に行たて、「実は、こういうふうなことが途中であったぁ」ちゅうたぎ、「あぁ、そんときゃ、あがんと、ここんたりゃ狐の騙すけん、そぎゃんいうぎ、そいぎ早よう帰らんばもう」ち、言うもんじゃいね。そいぎもう、早よう、用事ば済まして、あの、帰ったとたんたぁ。
そして、帰って来よったぎにゃあ、もう、あぎゃんこともあって。そうして、提灯のいっごとなったわけ。そいけんが、狐の騙すちゅうことは、こういう風なことじゃなかろうかぁと思うなたぁ。

出典:西与賀の歴史とその周辺p77