山ン姥 (人間と動物)

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山ン姥 (人間と動物)

■所在地佐賀市川副町
■登録ID2083

 むかし。
 あるところに、一郎・二郎・三郎の3人兄弟が住んでおったと。
 ある晩、一郎は大根畑へ見に行った。すると、山ン姥が大根を引いてガブガブと、食っていた。一郎は恐ろしくなり、家へ大急ぎで戻った。
 そのことを知った二郎が、大根畑へ見に行った。やはり二郎も山ン姥が恐ろしくなり、大急ぎで家へ戻った。こんどは三郎が大根畑へ見に行った。一郎や二郎が言ったように、山ン姥は大根を引いて食っていた。
 三郎は、 「婆さん」と言って、山ン姥が大根を食っているところへ行った。すると、山ン姥は三郎に、「俺が子に養子来んか」と言った。三郎は、山ン姥から言われるままに養子になった。
 山ン姥の住んでいる家の裏山には、きれいな蔵が建てられていた。三郎は、蔵の前で山ン姥から踊りを習わせられていた。
 ある日、山ン姥が留守中に三郎は蔵の中を開けた。その中には、金鎖につながれもの言う馬が1匹いた。もの言う馬は三郎に、 「飯ば炊て食わせろ。3日すっぎ、俺達食わるっじゃ。山ン姥から」と言った。三郎はその馬に、
 「どがんすっちゃいきゃ」と言った。その馬は三郎に、 「小豆飯ば3升食わせろ」と言った。
 三郎は、ものいう馬が言ったとおり、小豆飯を3升炊いて食わせた。すると、その馬が金鎖につながれていたが、それがバラバラと切れてしまった。その馬は三郎に、「今のうち乗れ」と言った。
 三郎は、その馬に乗った。また三郎は、その馬から3個の玉を貰った。山ン姥は、何処からともなく現れて、3個の玉を三郎から取りあげた。そして山ン姥は、
 「ヒノヤマトウゲ (火の山峠)」と言った。すると、その馬と三郎は、たちまちのうちに千里も吹き飛ばされてしまった。
 次に山ン姥は、
 「オオミズ (大水)」と言って、玉を投げた。たちまちのうちに大水になったので、山ン姥は三郎とその馬を追いかけることはできなかった。
 三郎は、山ン中の一軒家へ寄った。そこには、お爺さんとお婆さんが住んでおった。三郎は、その家へ泊めてもらうために、山ン姥から習わせられていた踊りをして見せた。お爺さんとお婆さんは、三郎を家へ泊めた。やがて三郎は、その家から風呂焚き丁稚になって、金持ちの家へ通った。
 ある日、金持ちの家で芝居があった。三郎は自分の顔に煤の付くほど働いた。三郎は、顔の煤を洗い、八丈絹の着物を身につけ山ン姥から習わせられていた踊りを踊ったら、そこの娘に惚れられてしまった。2人は、いつの間にか愛し合うようになった。そして、やがて娘は赤ちゃんを生んだ。娘の親は番頭たちに、「誰子か」と、言って聞いて回った。しかし、番頭は誰も心当たりがなかった。番頭が赤ちゃんを抱いても泣いてしまう。三郎が抱く番がきたので番頭は、「こいが抱いたっちゃ、顔は猫ンごとして、汚るっくさい」と言った。そこで三郎は、「半時間、暇くいろ」と言った。
 三郎は顔を洗い、八丈絹の着物を着てりっぱになって赤ちゃんを抱いたら、泣きやんだということさ。
 そいばあっきゃ。
              (新町  糸山サノ)

出典:川副町誌P.898〜P.900