蛙の道中

蛙の道中

■所在地佐賀市三瀬村
■登録ID1338

 むかしから、井の中の蛙ていう言葉のあるばって、肥前のビッキーも筑前のビッキーも、めっちゃあその、世間には出たこたあなかったて。そいもんじゃ、久しぶいで今日は天気のよかもんじゃ。筑前のビッキーが、俺あ、今日は肥前さい、肥前見物に行こうて思うて、筑前の方から三瀬峠さい、ぼちぼち登って来よったと。そして、肥前のビッキーも、久しぶりもんじゃ、今日は筑前見物に行くかと思え立って、肥前の方から三瀬峠さい下から登って来よった。そいぎと、ちょうどその、ふのゆう三瀬峠の絶頂で、両方から出合うたてったん。
 そいぎと、筑前のビッキーがいうことにゃあ、「よーい。肥前どん。あさんどこさい行きよっかい」 て。「おりゃあ、今日は日のよかけんが、いっちょう、筑前見物ば思え立ったたい」て言うて、お互いにあいさつして、「もう、ここは三瀬峠の絶頂じゃっけんか、もう、肥前も筑前もじきたい。もう一足たい。」ていうて、おたがいに立ちあがって「まあ、こっからちょっと眺めて見ゅうだん」ていうて眺めらしたと。そうしたぎ、ビッキーの目ん玉は頭のうしろについとるもんじゃ、わあが来た方の見ゆっと。そいで、筑前のビッキーの言っことにゃあ、「肥前も筑前も同じことやっかい」。そして、肥前のビッキーも「ほんにぃ。あさんの言うごったい。ほんなごてえ。筑前も肥前と同じこったい」。「そんないば、もう、こいから先さい行こうよいたぁ、別れて戻った方がましばい」。ていうて両方とも戻ったてったい。  そいばっきゃ。

出典:三瀬村誌p.685