屁ふり嫁(愚人譚)

屁ふり嫁(愚人譚)

■所在地佐賀市川副町
■登録ID2092

 あるところに、よく屁をひるお政さんという娘が住んでおったと。
 ある日、仲人さんがその娘を嫁に貰いにやって来た。すると、その親父さんは、
 「ないもかんも、家の娘ぁもう、屁ふって、どがんでんされん。くいられんたい」と言って、仲人さんに断った。仲人さんは、
 「いんにゃ、誰でん人間な、屁はふっさい。屁ふらんないどがいすっかい」と言った。親父さんは、
 「そんないよかたい。そがいお前の言うない、くりゅうだい」と言った。
 そんな縁談話があってから、ある日のこと、娘は仲人さんの世話で、ある男の嫁になった。嫁は屁ひることを我慢していたので、
 「お父さん、屁ふってよかじゃいきゃん」と言った。親父さんは、
 「おりょ、屁ばふらじゃあ。おとん、俺どみゃあ1日何度ふっかん」と言った。するとお政は、
 「そんない棚の上の、あの、何でんのけとってくんさい」と言った。親父さんは、
 「いくらおとんの屁でん、そがい太か屁のあんもんかん。よかよか」と言った。お政は、
 「そいないば」と、親父さんに言いながら屁をひった。ところが、棚の上の物は、ガランガラン、バチャンバチャンと、落ちてしまった。親父さんは、本当に目をまわさんばかりにびっくりしてしまった。そして親父さんは、
 「お政よ。いくら屁ふいでん、そがい太か屁ふんない、おとんのごとあった出てくいやい」と言った。
 お政は、そんなことを親父さんから言われたので、2、3日後に仕方なしにその家から出た。お政が実家に戻っていると、鍬打ち込んでいるある人に出会った。ある人はお政を見て、
 「おりょう、お政さん。お前あこの頃ぞ嫁御ぇなって、もうはち来よっのまい」と言った。お政は正直に、
 「ないもかいも、屁ふったぎ、お前、ださいたたい」と言った。ある人は、
 「おうーろ。お前の屁はそがん太かのまい」と言った。お政は恥ずかしくも思わないで、
 「太かくさい」と言った。
 ある人は、お政の尻の近くで鍬打ち込んでいた。お政は、
 「さあ、ふっばい。ブーッ」と、大きな屁をひった。
 ある人の鍬は、何処かへ屁で吹き飛ばされてしまった。そのため仕事ができなくなり、百姓の家に奉公した。やはりある人は、鍬のことが気にかかって、奉公先の鍬ばかり見ていた。
 ある人は、早朝に田んぼへ馬使いに行った。ところが、その馬を途中で博労に売ってしまい、馬使いどころか、どうすることもできず、
 「おーりょ、どがいすっかねえ。あの鍬ば一ちょのうにゃあて」と、独り言を言いながら、鍬を探していた。そこへ主人が朝飯を持って来た。馬もいないので主人は、
 「おったぁ、馬ぁどかんしたかん」と言った。ある人は、
 「ないもかんも、ケラ (虫の一種) の曳いてはしったたんたぁ」と言った。すると主人はまた、
 「おったあ、馬あどかんしたかん」と言った。ある人は、主人に博労に売ったとは言わずに、
 「ケラのぶっ張ったたんたあ、ケラの曳いてはしったたんたぁ」と言った。
 それから、「鍬はねずみの曳く。馬はケラの曳く」と、いうことげな。
              (野村  高森アヤ)

出典:川副町誌P.909〜P.912