お不動さんと竜王池
お不動さんと竜王池
■所在地佐賀市大和町
■登録ID2326
お不動さんで知られている水上山万寿寺の開基といわれる神子和尚が仁治3年(1242)48才のころの話である。ある日、神子和尚が竜渕室という所に端座していると、空がにわかに曇ってきて次第に暗くなり、物凄い雷鳴につれてしのつく雨が降ってきた。和尚は平然と瞑想三昧に入っていたが、一きわ烈しい音響とともに何者かが落ちてきた様子である。見ると庭先に双角鬼面(鬼の形をした)の怪物が2つうずくまっている。和尚は急いで襟にかけていた袈裟をはずして取り押え「何者じゃ」と問いかけると
「私たちは善護・慈済と申す者で竜王よりの使者でございます」
「何のためにまいられた」
「竜王から贈られた水火2振りの宝剣を忠実に護っておられるとは思いますが、この上ともよく守護するよう私たち2人が仰せを受けてまいりました」
というのでいっしょに暮らすことにしたが、2人とも実にまめまめしく働く。3年ほどたってから2人は改めて和尚に切り出した。
「私どもの役目の日限は今日限りでございます。ただ今お暇をいただきたいと思いますが、お望みがあれば何なりと……」
「さようか、ではこの山は水不足で困っている。水を施してはくれまいか…」
と頼んだところ「心得ました」というより早く両人がそばの岩をぽんとけった。ところが不思議にも岩の下からこんこんと清水が湧き出してたちまち池となり、その後如何なる旱ばつにもこの池ばかりはかれたことがないという。この池を竜王池と呼んでいる。
今ひとつこの伝説の変形と思われるものがある。
神子和尚が例のように庭の落葉をはいていると、一天にわかにかき曇り物凄い雷鳴とともに和尚の目の前に雷が転げ落ちてきた。和尚は持っていたほうきですばやくその雷をとり押え、
「ここは天下の大道場じゃ。こんな所に落ちてきて修行のじゃまをしてはならぬぞ」とたしなめられたところ、雷は平伏して
「そんなところとはつゆ知らず落ちてきて悪うございました。以後こちらには決して落ちないように仲間の者にも申し伝えておきます」
とあやまるので許してやった。以後この水上山には落雷することがなかったという。
出典:大和町史P.658〜660