母恋雨蛙(子どもに聞かせる民話)

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母恋雨蛙(子どもに聞かせる民話)

■所在地佐賀市大和町
■登録ID2336

 空がどんよりと曇って今にも雨が降り出しそうになる初夏のころになると「キャフ、キャフ、キャフ」というように悲壮な声を出して雨蛙が鳴きます。雨蛙が生まれた時はすでにお父さんはなくお母さんの手で育てられていました。ひとりっ子の雨蛙は甘えん坊でわがままで、お母さんをたいへん手こずらせました。お母さんが「こっちへおいで」というと向こうへ行くし「これは食べてはいけない」というとむやみに食べようとするし、何といっても反対のことばかりしました。お母さん蛙は自分が死んだらこの子はいったいどうなることだろうといつも心配ばかりしていました。ところがどうしたことか、お母さん蛙はある日うっかりして木の葉からすべり落ち、下にあった石で頭をいやというほど強く打ちました。それがもとでお母さん蛙は死にそうになったので子蛙を枕もとに呼んで「お母さんが死んだら川岸に葬っておくれ」と頼んで息をひきとりました。子蛙はとても悲しみました。今まで自分はどうしてこんなにお母さんのいわれることに反対ばかりしただろうか。お母さんは自分が反対ばかりしたために、そのことばかり考えて心配のあまりうっかりして木の葉からすべり落ちたのでは………と、いろいろ考えにふけりました。そして「よし、せめてお母さんが死ぬまぎわにいわれたことだけでもお母さんのいいつけどうりにしよう」こういって子蛙はお母さん蛙のいいつけどおり川岸に葬ってやりました。お母さん蛙は子蛙が何でも反対ばかりするので、川岸へ葬ってくれといえばきっと山へ葬ってくれるだろう………そう思っていたのです。ところが子蛙はお母さんの最後のたったひとことだけは正直に守ったのです。子蛙は雨が降ると水が肥って、お母さんが流れはしないかと心配でたまらないから鳴くのです。

出典:大和町史P.670〜671